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福岡家庭裁判所 昭和44年(少)927号 決定

少年 U・H(昭二七・九・二四生)

主文

この事件のうち業務上過失傷害および救護義務違反の点を福岡地方検察庁の検察官に送致する。

この事件のうち無免許運転の点について少年を保護処分に付さない。

理由

第一、検察官送致決定の理由

(犯罪事実および適条)

少年は、

第一、運転練習等の目的で自動車運転を反覆累行して自動車運転の業務に従事しているものであるところ、昭和四四年八月○○日午後九時三〇分頃普通乗用自動車を運転し福岡市○○○町○丁目○○番地先の信号による交通整理の行われている交差点を信号にしたがつて○○町方向から進入し右折して△△方面に向おうとしたが、対向直進車の有無を確認しもつてこれとの衝突の危険を回避すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠たつた過失により、折から△△△方向から○○町方向に向うべく同交差点内に対向直進して来た○武○美(当一八年)運転の原動機付自転車の進路直前を遮るように右折進行して同車を自車右側部に激突するのを余儀なくさせて路上に転倒させ、その結果同人に加療六ヵ月間以上を要する左腕関節脱臼前膊骨折、後頭部打撲、皮下血腫、脳震盪の傷害を与えた、

第二、前記同一時場所において、前記のとおり自己の運転する自動車の交通により前記○武○美を負傷させたことを知りながら、同人を救護する等必要な措置を講じなかつた。

ものである。

第一の点 刑法二一一条前段

第二の点 道路交通法七二条一項前段一一七条

(送致の理由)

本件罪質および情状に照らして、刑事処分を相当と認める。よつて、少年法二〇条にしたがい、主文第一項のとおり決定する。

第二不処分決定の理由

この事件のうち無免許運転の点に関する検察官からの送致事実の要旨は、

「少年は、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四四年八月○○日午後九時二〇分頃福岡市○○○○町○丁目○○番地付近路上において普通乗車自動車を運転したものである。」

というのである。

よつて、審按するに、本件記録によれば、少年が右無免許運転の非行を犯したことは明白である。しかし、当庁昭和四四年少第三一四四号U・H(本件少年)に対する賍物運搬、道路交通法違反保護事件記録によれば、少年は、同事件において、「公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四四年八月○○日午後九時頃から九時三〇分頃までの間福岡市博多駅裏交差点から××を経て同市○○○町○○番地まで約八キロメートルを普通乗用自動車を運転した」との無免許運転の非行事実につき、調査、審判を受け、保護的措置を講じられた後不処分決定を受けており、この無免許運転行為と本件の無免許運転行為とは同一の非行事実であることが認められるのである。

したがつて、本件のうち無免許運転の点は、既に当裁判所に送致ずみの同一犯罪事実について重ねて当裁判所に事件送致されたものである。少年法は保護処分決定の対象となつた犯罪事実については、重ねて刑事訴追をし、または家庭裁判所の審判に付することができない旨規定しているのみで、本件の如き場合についてはなんらの規定も置いていない。しかし、少年が家庭裁判所の調査、審判を経て一応の保護的措置を講じられ終局決定を受けた犯罪事実について、後日重ねて家庭裁判所の審判に付されることもありうるとするならば、少年を事件の蒸返しの不安にさらしその更正改善上いたずらに障害を来たす結果を招きかねない。少年法といえども、刑事に関する特別法に外ならないのであるから、その性質に反しない限り刑事訴訟法の各規定を類推適用し、あるいはその趣旨とするところを類推して少年法を解釈運用することは些かも妨げないところであろう。してみれば、刑事訴訟法三三八条三号によれば、公訴提起があつた事件について、さらに同一裁判所に公訴が提起されたときは、公訴棄却の判決がなされ、また、同法三三七条一号によれば、既に確定判決を経た事件について重ねて公訴が提起されたときは免許の判決がなされるものとされているのである。この規定の趣旨とするところを少年法にも類推して考えるならば、既に調査、審判を経て保護的措置の講じられた後に不処分決定された事件については、少くとも家庭裁判所の審判権は消滅したものとして取扱うべきであり、したがつて、当該事件が重ねて家庭裁判所に送致されたときは、審判に付することができないものとして、少年法一九条一項の決定をすべきものであり、また、審判開始決定後これを発見したときは、保護処分に付することができないものとして同法二三条二項の決定をすべきものであると解するを相当とする。

よつて、この事件のうち無免許運転の点については、家庭裁判所の審判権は既に消滅し、これについて少年を保護処分に付することができないので、少年法二三条二項に則り主文第二項のとおり決定する。

(裁判官 金沢英一)

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